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2020.09.30
みなさんこんにちは。食欲の秋、新米コシヒカリの秋がやってきました。1日3合、米大好きi-nac田辺です。
さて、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)がまだまだインパクトを持った世界が続いています。
変化が大きく、不確かで、複雑で、あいまいで、先が見通せない。こんな状況では不安感も大きくなりがちですね。
不安やイライラといった自分の感情をありのまま認め、受入れながら新型コロナの日常を生きていくためのヒントとして、後編では新型コロナの長期化を見据えた「withコロナ」におけるリスクマネジメントについて紹介します。
※長文なので、具体的な当校の事例をチェックしたい人は、本文後半にある
「学びを止めない」ために~「withコロナ」における感染リスクのマネジメント
まで飛ばし読みしてください。ここをクリック
※前編がまだの方はここからどうぞ
生物はみな、一生懸命生きている、ということだ。何か意味や価値があるから生きているのではない、生きているからこそ、意味や価値が生まれてくるのだ
引用:長谷川眞理子『世界は美しくて不思議に満ちている「共感」から考える人の進化』青土社
アウトドア活動とリスクマネジメント
当校では1年次の夏に「リスクマネジメント実習」を4日間、受講します。
前編で紹介したように、アウトドア活動の本質は
「刻々と変化する自然の中で、リスクテイクな(リスクをとる、リスクのある)活動を楽しむことが、自分の学びや成長につながる」ことにあります。
ここで大切なこと。
それは「リスクのある活動を的確リスク管理をしながら」楽しむこと、です。
つまり、アウトドア活動を心底楽しむためには、リスク管理が「キモ」になります。
リスクマネジメントでは、リスクが「発生する確率」と「発生した時の影響度」から、リスクの大きさを評価します。
リスクの大きさ=発生確率×影響度
そして、リスクを4つに分類し対応を検討します(下図)。
右上より反時計回りに…
■回避:大けがや、下手をしたら死んでしまうくらい「影響度」が高く、発生する確率も高いリスクがある場合は、その活動を取りやめるのが最善です(発生確率をゼロにする)。
主にカミナリ、台風、地震、雪崩の危険などが含まれます。
■移転:あまり起こらないけど、一旦発生したら「影響度」が大きいリスクの場合は、そのリスクの影響(この場合、主に金銭的なコストと社会的責任)を外部に移転(アウトソーシング)することで、影響度を低くします。
保険に入る(怪我の治療費や障害を負った場合の金銭コスト、賠償責任の移転)、学校に相談する(社会的責任の移転)、最終判断を他の人に任せる(社会的責任の移転)など。
■低減:影響度は低いけど、よく発生するリスクは、リスクが起こらないように注意、対策をします。
虫よけスプレー、靴づれ・捻挫・転倒等の予防(テーピング、声かけ、こまめな休憩、集中の持続などなど)、健康・体調管理、各種トレーニングなど。
■受容:あまり起こらない小さいリスクは、無視します。笑
リスクマネジメント実習では、実際のアウトドア活動(登山、トレッキング、ナイトハイク、シャワークライミング、やぶ漕ぎなど)に行く前に、グループに分かれて、その活動のリスクを洗い出し(リスクの特定)、影響度と発生確率を検討し(リスクの評価)、そのリスクにどのように対処するか(リスクの対応)、しっかりと話し合いをします。
一方で、どんなにしっかりと事前に検討や準備をしても、実際のアウトドア活動では、想定外のことが起きることもしばしばあります。
道に迷ったり、去年あった水場が枯れていたり、想像以上に大変だったり。笑
その想定外の経験自体も大きな学びになりますが、最大の学びは、
「想定外な状況で最終的な判断をして行動した経験」
これに尽きます。
雨や寒さ、疲労、迷い、焦り、刻々と時間が過ぎていく。
そんな状況下で経験した一つ一つの仮説検証、判断、行動。
うまくいってもいかなくても、この経験がかけがえのない自信や財産になるのです。
以上が、リスクマネジメントのおおまかな考え方です。
次に本命の「新型コロナのリスクマネジメント」について考えてみましょう!
i-nac版。新型コロナのリスクマネジメント
世界は本来、「実は正解がいくつもある」というものに満ちています
引用:山極寿一『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』ポプラ社
自然はいつも気まぐれで、偶然性に支配されており、しかもいつも一回性の出来事です。十中八九、思い通りにはなりません
引用:福岡伸一『ナチュラリストー生命を愛でる人ー』新潮社
まずは、新型コロナのリスクを検討します。現状、当校では以下のように考えています。
リスクの影響度と発生確率をまとめました。
■影響度
社会的責任の影響度は甚大。
現状、社会の不安感や同調圧力が高いレベルにある。
感染した場合、下記のような影響がでる可能性がある。
・所属先(学校、勤務先)への影響(休校、業務停止)
・地域への影響(場合によっては、小中学校の休校、飲食店の休業など)
・外部連携先への影響(インターンシップや就職活動先の休業、閉鎖)
・家庭への影響(保護者、同居人への直接・間接的な影響)
・SNS等での個人情報の特定、誹謗中傷
健康に及ぼす影響度は、現状、下記のようにとらえています。
・医学的に未だはっきりとわかっていない (判断できない、あいまいな状況自体が大きなリスク)
・重症化した場合および後遺症が残った場合のリスクは高い
・今後ウイルスが変異していく中で、強毒性を獲得する可能性もゼロではない
■発生確率
状況によって大きく変化する。たとえば、新規感染者が多い地域で感染対策をしていないと確率は高くなるかもしれない。
i-nacにおけるリスクの対応
◆リスクの移転
学生は、事前に学校に相談することで、感染した際の社会的な影響を学校に移転する。
国や自治体によって注意喚起、自粛要請がでている行動(県外往来など)。
感染拡大地域でのインターンシップ・就職活動など。
◆リスクの低減
感染対策をすることで、感染する確率を減らす。
◆リスクの低減および影響度を減らす
体調管理(食事、睡眠、運動、生活リズム)をすることで、感染する確率を減らすとともに、感染した場合の健康への影響を低くする。
新型コロナのリスクについては、ホームルームや授業・実習を通して、適宜、学生と共有しています。
状況の変化は速くかつ大きく、今後長期化していく。
そんな変化するリアルな世界の中で、学生一人一人が仮説検証し、判断し、行動していくことが、
「ピンチをチャンスに変え、リスクを取りながら学ぶ」
ことの実践になるのです。
私たち教員も実際に学び続けています。
そして今、ここでしかできない学びの大切さを実感しています。
5/29学校配信:【重要】6月からの授業および新型コロナウイルス対策について
7/6学校配信:【重要】新型コロナウイルス感染症に関する当校の取り組みについて 在校生の皆さんへ
7/18学校配信:【重要】夏休み中の新型コロナウイルス対策および後期授業について
8/5学校配信:【重要】夏休み中の新型コロナウイルス対策および後期授業について
「学びを止めないために」
~「withコロナ」における感染リスクのマネジメント
人間関係の本質は共感にある
引用:野中郁次郎,勝見明『共感経営「物語り戦略」で輝く現場』日本経済新聞出版
生物としての私たちの成功の秘訣は、人々が互いに心を共有し、共感し、同じ目標に向かって協力できることなのだということを、より多くの人々に再認識して欲しいのである
引用:長谷川眞理子『世界は美しくて不思議に満ちている「共感」から考える人の進化』青土社
長期化する新型コロナを乗り切るチャレンジは、教職員や学生だけではできません。
・保護者の方々
・地域のみなさん
・外部連携先(インターンシップの受入先や就職活動関連)のみなさん
・妙高市といった自治体(特に新型コロナ対策室)
・教職員の家族
このような多くの人たちと連携し、理解、協力や支援をいただくことで、リスクを取りつつ学びを続けることができるのです。
インターンシップや就職活動をやめないという判断
夏休みに入った7月下旬から8月にかけて、新型コロナの新規感染者が急増していました(東京都で400人/日以上)。そんな中でも、当校ではインターンシップや就職活動を継続する選択をしてきました。
私が担当する野外教育・アウトドアスポーツ学科の夏のインターンシップ先を一部紹介します。
●銀河もみじキャンプ場(卒業生が働いています)WEBサイト
●せいなの森キャンプ場 WEBサイト
※撮影の際、マスクを外すご協力をしていただきました。
●那須アウトバックツアーズ WEBサイト
栃木県:ラフティングやシャワークライミングなどのツアー
●EARTHSHIP WEBサイト
岐阜県:ラフティングやシャワークライミングなどのツアー
●BLUE TAMAGAWA WEBサイト
東京都:アウトドアフィットネスジム
●エーゼロ株式会社 WEBサイト
岡山県:地域ビジネス支援、地産地消の商品開発、自然×福祉事業
新型コロナの感染リスクが高まっている中、学校として、上記のような活動を認めないという判断もできました。
4種類のリスクマネジメントでは、「リスク回避」の判断です(リスクマネジメントの図参照)。
「リスク回避」は一番確実ですが、考え方によっては、一番安易な方法でもあります。
状況を整理してみましょう。
新型コロナの脅威が本格化し始めた4月。
新型コロナに関する情報は限りなく少なく、またクラスター対策だけでは感染拡大を抑え切れなくなりました。
結果、政府は緊急事態宣言を全国に発令し外出自粛を呼びかけるしかありませんでした。
しかし、今は違います。
政府は、経済活動と感染抑止の両輪を回す(ブレーキとアクセルを同時に踏む)方針です。
フェーズは大きく変わりました。
「withコロナ」の新たな日常を模索するフェーズでは、
「リスクをとる人と取らない人の差が日に日に大きくなっていく」
このことを1つの事実として捉える勇気が、ピンチをチャンスに変える原動力となります。
一方で、事情や状況によって、慎重さが求められるケースももちろんあるでしょう。
リスクテイクの判断ができるのは、ある意味幸運なことでもあるのです。
インターンシップでは、学生の不安、保護者の不安、受入先の不安、そして学校の不安について共有を図り、あるがままの不安をできるだけ受入れながら、そのうえで何ができるかを考えて、リスクをとることを選択しました。
まさに暗中模索。
手探りの中、行く方向をこまめに確認しながら、道なき道を進んでいく。
簡単なことではありません。
対策としては、いかに「リスク低減」するかが焦点になります(リスクマネジメントの図参照)。
マスク着用、消毒・手洗い、3密を避ける、検温・体調チェックといった対策については、学生たちは4月から行っており、今ではごく普通となっています。
これらにプラスして、公私にわたり下記の対策を行いました。
・インターンシップ先への公用車での送迎(往復500km以上を日帰りで、を数回とか笑)
・学生がインターンシップに行っている間は、毎年行っている大好きな山でのトレイルランニングを控える(約2か月の学生の夏休み期間中、だれかかれかどこかに行っている状況で、結局山には行けませんでした…)
・ラインでのこまめなやりとり(ラインスタンプを初めて購入しました笑)
・日々のランニングで体調管理(今年の夏は、激暑かった~)。おかげで今、絶好調笑。
要点は、感染者が急増している時期に、かなり高いリスクが想定されるインターンシップを行う上で、
インターンシップという「リスクのある学生の学び」を最優先に考える
ということです。
ほかの自分の活動リスクは「受容」できるレベルにしておくことで(リスクマネジメントの図参照)、
・トータルのリスクをコントロール可能な範囲に調整する。
・一番高い最優先のリスク(この場合、インターンシップや就職活動)に集中する。
ことができるのです。
たとえば学生が、インターンシップ先で体調不良、怪我、病気になった時、あるいは感染疑いや新たな感染対策が必要になった場合のリスクを想定し、例年以上にできるだけ速やかに対応できる体制が重要という判断です。
学生の学びが最優先。
いうは易し。
実感する日々です。
ほぼ巣ごもりとなった夏休み。おかげで50冊以上、読書できました笑
学生を信頼する
学生たちは感染対策への意識も高く、状況に応じて感染リスクを判断し、各自で対策することができるようになってきています。場合によっては、教員にライン等で相談することもありますが、それは「相談するという判断」ができるということです。
私自身、公私にわたり、さまざま場所を見て、人と会ったり話を聞いたりする中で、感じていることがあります。
それは、
「学生たちの新型コロナに対するリスクマネジメントは、総じてしっかりしているほうだ」
ということです。
誤解を恐れずに言うと、
「これで感染したら仕方ない」
と思えるほどです。
学生を信頼する。
学生も学校を信頼する。
長期化する「withコロナ」を乗り切るには、この関係をいかに構築、更新するかがキーとなります。
信じる。信頼する。
これも、いうは易し。
すぐにできることではありません。
世界的な経営学者である野中郁次郎氏の言葉「人間関係の本質は共感にある」を借りると、
「新型コロナのリスクマネジメントの本質は共感にある」
ここでいう「共感」は、安易にするものではありません。
リスクのある中で、「私はこう思う」「あなたが考えているのはこういうことだよね」という本気のやりとりを通じ(野中は「知的コンバット」と言っています)、お互い信頼することができた時、ようやく「真の共感」を得ることができるのです。
「アウトドアの学びとは何か?」
「アウトドアの専門学校だからこそできることは何か?」
新型コロナのリスクマネジメントにおいて、アウトドアの経験がとても役に立っています。
(前編 新型コロナを学びに変える5つのエッセンス参照)
自身の実践の中で、日々実感しています。
一方で、私たちはまだまだ学びの途中です。
リスクマネジメントに正解や終わりはありません。
つまり
私たちは、今後もまだまだ学び、成長できるということです。
これからも自然から大いに学び、withコロナを乗り切っていきましょう。
【執筆者】
野外教育・アウトドアスポーツ学科主任・田辺慎一
北海道生まれ。帯広畜産大学山岳部出身。
北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了(博士・地球環境科学)。自然資本主義。
生態学の視点から、人と自然の関係をデザイン・提案することがライフワーク。
日本生態学会論文賞 (2002年)、日本森林学会奨励賞(2006年)受賞。
登山、薪割り、自家菜園、山スキー、本厄の年に始めたトレランで runに目覚め、妙高の18の山間集落を駆け巡る超ハードな山岳ロードマラソン「MURA18」をプロデュース。
ULTRA TRAIL Mt.FUJI(富士山周辺の山々を160km走る日本最大のトレイルランニングレース)年代別1位経験有。
ボルネオ島のキナバル山(標高4,095m)を中心とした国際的な生態系観測プロジェクトに参画、現地集落に1年半ホームステイし長期滞在型テレワークを経験。
国際的な生物多様性観測プロジェクト(IBOY:International Biodiversity Observation Year)において、マレーシア、インドネシアでの生物調査、現地スタッフ対象の生物同定トレーニングコースのマネジメント・講師を担当。
ロシア、中国、韓国、日本の里山を対象とした生物多様性観測プロジェクト(SBOY:SATOYAMA Biodiversity Observation Year)を提案、共同研究を推進。
北海道大学低温科学研究所研究員、金沢大学自然計測応用研究センター21世紀COE研究員、総合地球環境学研究所共同研究員、十日町市立里山科学館越後松之山「森の学校」キョロロ研究員を経て現職。